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音楽の圧縮形式のいろいろ

iPod/iPad/iPhone/iTunesでは、AAC(16~320Kbps)、MP3(32~320Kbps)、MP3 VBR、Apple Lossless、WAV、AIFF、Audibleといった各形式の音楽ファイルが演奏可能です。 ここではそれぞれのファイル形式について簡単に解説してみたいと思います。

可逆圧縮と非可逆圧縮

音楽の圧縮形式には、大きく分けて 可逆圧縮非可逆圧縮(不可逆圧縮) の2種類があります。 通常デジタルオーディオプレイヤーで用いられるのは、人間の耳に聞こえにくい高域成分を切り捨ててしまうことによりサイズを圧縮する方式です。 これは、演奏時に復元しても、完全に元の音楽と同じには戻らないので「非可逆圧縮(不可逆圧縮)」と言われます。 これに対して、全ての音データを切り捨ててしまうことなく、完全に元の音楽に戻せる圧縮形式を「可逆圧縮」といいます。 AACやMP3などの非可逆圧縮フォーマットは、元の音楽データの10分の1程度までサイズを圧縮することができます。 一方、Apple Losslessのような可逆圧縮フォーマットは、圧縮率はせいぜい2分の1です。 このため、非可逆圧縮で100曲格納できるメモリに、可逆圧縮では20曲程度しか格納できないことになります。 可逆圧縮は、非可逆圧縮では音質の低下が目立ちやすい、ピアノソロなどの高音が目立つ曲、クラシックなどの曲に限定して利用すると良いかもしれません。

ビットレート

圧縮するときには ビットレート という数値(単位はkbps:kilo bit per second)で圧縮率を指定します。 この値が小さいほど圧縮率が高く、圧縮された音楽データのサイズが小さくなりますが、音質も低下します。 逆にこの値が大きいほど、圧縮された音楽データのサイズは大きくなりますが、音質は向上します。

フォーマット変換

AAC や MP3, WMA, ATRAC3 などの非可逆圧縮フォーマットは、すでに情報の一部が失われているので、これを可逆圧縮フォーマットに変換したり、低音質(例:128kbps)から高音質(例:192kbps)に変換しても音質は改善しません。 さらに、AACからMP3への変換など、非可逆圧縮フォーマット同士の変換は、変換のたびに情報の一部が失われていくので、どんどん音質が劣化します。 圧縮形式や音質を変えたい場合は、元の音楽CDから取り込みなおすのが基本です。

ハイレゾ(High-Resolution Audio)

人間の可聴音域を超えた周波数要素を含む音楽を、俗称でハイレゾリューションオーディオと呼びます。 まだ、ハイレゾオーディオの明確な定義はありませんが、CDの音質を超えるもの(サンプリング周波数または量子化ビット数がCDより高いもの)をハイレゾオーディオと呼んでいます。 人間の耳に聞こえない音を再現するものなので、人間の耳には聞こえ方は変わらないかというとそうでもない様子。 半ば「信仰」の領域ですが、人間の可聴音域を超えた周波数要素を含む音源とそうでない音源では、可聴音域にもわずかながら違いが出ることがあるようです。

音楽圧縮形式の解説

AAC(Advanced Audio Coding)


動画圧縮規格の「MPEG-2」、「MPEG-4」で使用される音声フォーマットの一つです。 圧縮効率が高く、MP3に代わる優れたフォーマットとして、iTunesではこのAAC形式が標準の圧縮形式として選択されています。 ただ、過去に製品間での互換性が低い時代があり、まれに他社ソフトで作られたAACファイルがiPodで再生できないことがあります。 AAC形式を使う場合のビットレートは、128kbps以上、特に高音質を希望するなら256kbps以上が良いと思います。 iTunesストアで扱う楽曲もAAC形式で、拡張子が“.m4a”です。
AACは非可逆圧縮形式です。

MP3 (MPEG-1 Audio Layer 3)


動画圧縮規格「MPEG-1」で使用される音声フォーマットの一つです。 広く普及している形式で、一般的なデジタルオーディオプレイヤーの多くがこの形式に対応しています。 この形式で圧縮しておけば、iPod以外でも多くのプレイヤーで再生できます。
MP3のビットレートは、一般的には192kbps以上を指定すれば、ほとんど元の音楽との区別がつかなくなるといわれています。 最近はプレイヤーの容量も大きくなってきたので、MP3の最高音質である320kbpsで取り込むのも良いと思います。 また、CBR(固定ビットレート)に対して、曲の中でビットレートを変えながら効率よく最適なデータにしていくVBR(可変ビットレート)という方法もあります。 ただし、VBRを使用すると、曲によっては部分的に必要以上に高ビットレートとなってしまい、プレイヤーによっては性能不足で音がとぎれるなどの不具合が発生する場合があります。
MP3は非可逆圧縮形式です。

FLAC (Free Lossless Audio Codec)


オープンソースとして開発されている、ロスレスオーディオコーデックです。 特許の制約を受けることはなく、どこかの会社の所有物というわけでもなく、使用にライセンス費用も発生しません。 また、サンプリング周波数は1Hz - 655.3kHz (655,350Hz)、量子化ビット数は4~32bitまで対応しているので、 いわゆるハイレゾ(人間の可聴音域を超えた周波数要素を含む)音楽もエンコードできます。 ただしロスレスのため圧縮率は低く、ファイルサイズはせいぜい半分程度にしかなりません。 iOS11でまずは「ファイル」アプリからの再生に対応しました。
FLACは可逆圧縮形式です。

WMA (Windows Media Audio)


マイクロソフト社がウインドウズOSのために開発した音楽圧縮形式です。 Windows系の多くの音楽配信ソフトやデジタルオーディオプレイヤーで採用されています。 同じ音質であれば、MP3の半分までファイルサイズを小さくできると言われています。 WMA形式のファイルは、iTunesに取り込むときにAAC形式/MP3形式に変換されます。 ただし、ダウンロード購入した、著作権保護(DRM)が付いた曲はAAC形式/MP3形式に変換することは不可能です。
WMAは非可逆圧縮形式です。

Apple Lossless(ALAC:アップル ロスレス)


Apple Losslessは、アップル社がiPodのために開発した可逆圧縮フォーマットです。 音楽CDと同じ音質を維持することができますが、MP3などの非可逆圧縮フォーマットに比べて圧縮率は良くありません。 非可逆圧縮では音質の低下が目立ちやすい、クラシックなどに限定して利用すると良いかもしれません。
なお、このフォーマットは2011年10月27日にオープンソースとして公開されました。 無料のApacheライセンスの元、自由に利用できます。

WAV (WAVE : ウエーブ)


マイクロソフト社とIBM社が規格制定した、Windows標準の音声ファイル形式で、WAVE形式とも呼ばれます。 通常は非圧縮で音質は良いですが、サイズが非常に大きなファイルです。 WAV形式のファイルは、iTunesに取り込むときにAAC形式/MP3形式に変換されます。 なお、WAVには圧縮を指定することも出来ますが、あまり利用例は無いようです。

AIFF (Audio Interchange File Format)


アップル社が規格制定した、Macintosh標準の音声ファイル形式です。 こちらもWAV同様非圧縮で音質は良いですが、サイズが非常に大きなファイルです。 非可逆圧縮機能をもたせた拡張フォーマット、AIFCもあります。

ATRAC/ATRAC3/ATRAC3plus (Adaptive TRansform Acoustic Coding)


SONYが規格制定した音声ファイル形式です。MD(ミニディスク)の記録方式として有名です。 そのままiPodで再生することはできません。 SONYの音楽再生ソフト"SonicStage"を使うと、ATRAC3形式をWAV形式に変換して保存することができます。 これをiTunesに取り込めば、AAC/MP3形式に変換されるので、iPodでも聞くことができます。 しかし、変換の過程で音質の劣化は避けられません。 また、ダウンロード購入した、著作権保護(DRM:OpenMG)が付いた曲はWAV形式に変換することも不可能です。
ATRAC3は非可逆圧縮形式です。 ただし、ATRAC Advanced Losslessという可逆圧縮フォーマットも定義されています。

Audible


audible.com が提供するオーディオブック(本の朗読など)で用いられる形式で、音楽ではあまり使用されません。

その他


ネットなどでは、音楽CDの音質をそのまま保てる可逆圧縮フォーマットとして、.ape/.tta/.takなとどいった形式が利用されることもあります。

音楽圧縮形式の変換について

音楽ファイルの圧縮形式は、iTunesの、音楽ファイルの右クリックメニューや、各種フリーソフトを使って相互変換することが出来ます。 音楽ファイルの形式を変更する のページでは、音楽ファイル形式を変更する方法をご紹介しています。
しかし、上でも説明したように、MP3やAACなどの非可逆圧縮形式のファイルを変換すると、そのたびに音質がどんどん劣化していきます。 圧縮形式を変えたい場合は、もとの音楽CDから再度取り込み直すのが良いと思われます。
まず、iTunesから、圧縮形式を変えたい曲を削除する。 つづいてiTunesの[編集]-[環境設定]-[詳細]-[インポート]メニューで、取り込みたい圧縮形式を選ぶ。 そして再度、音楽CDから曲の取り込みを行う
これで劣化も最小限に押さえて、新たな形式で取り込むことが出来ます。

音楽圧縮に関する情報

オーディオビジュアル関連のニュースサイトである AV Watch では、MP3と各種デジタルオーディオ機器の音質に関する研究を行っています。 以下がその各記事へのリンク一覧です。

デジタルオーディオに関するリンク一覧


再生能力を探る
iPadやiPhoneで24bit/96kHzはそのまま再生可能?~Dockからデジタル出力で検証。
iPodに最適なMP3を作る
その1:MP3エンコーダにまつわる噂を検証
その2:128kbpsでは表現しきれない「16kHzの壁」
その3:エンコード前の高域ブーストで音質向上?
その4:24bit/96kHz変換で音質は上がるか?
ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
その1:測定方法を検討する
その2:Nomad Jukebox Zen NXの再生性能を検証
その3:iPodとiTunesの音質を検証
その4:gigabeat G20とRio Nitrusの音質を検証
その5:「Rio Karma」と「Nomad MuVo2」の音質を検証
パッケージソフト全盛時代の「現代MP3事情」
最新エンコーダの性能ってどうなのよ! 令和3年の“MP3事情”を調査した
その1:MP3の概要と現状
その2:MP3エンコードの設定でどれだけ音が変わるのか?
その3:エンコードエンジンよる音の違いを検証する
その4:毛色の変わったエンコードエンジンを試す
その5:MP3音質改善デコーダの効果とは?
MP3の新規格「MP3PRO」を検証する
MP3の新規格「MP3PRO」を検証する Part2
MP3の新規格「MP3PRO」を検証する Part2
その1:ソニーのオーディオ圧縮方式「ATRAC3」
その2:マイクロソフトの「Windows Media Audio」
その3:MPEG-2の音声フォーマット「AAC」
その4:NTTの「TwinVQ」
その5:実はATRAC3を採用していたRealAudio 8の実力
その6:フリーの「Ogg Vorbis」と、QDesignの「QDX」
その7:可逆圧縮フォーマットと、これまでのまとめ
その8:「MPEG-4 AAC」一括ライセンスの行方
その9:「午後のこ~だ」の最新版を試す
その他単発記事
MP3でどんな音が失われるのか【続編】
MP3圧縮で、どんな音が失われるのか~24bit WAVとの差分を抜き出して比較 ~
Windows Media Audio 9の実力
Windows Media Audio 9の実力 追補版
ソニーの低ビットレート用新圧縮フォーマット「ATRAC3plus」をテスト
アップルの可逆圧縮フォーマット「Apple Lossless」