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S-IC 第一段ロケット

S-IC(エス・ワン・シー)は、その巨体に満たした燃料をたった2分半で使い切り、使命を終えます。 そしてその到達高度は旅客機の巡航高度の約6倍です。
  • 直径: 33ft (10.06m)
  • 高さ: 138ft (42.06m)
  • 乾燥重量:303000lb (137.44ton)
  • 全重量:4881000lb(2213.97ton)
  • 製造:ボーイング(The Boeing Co. New Orleans)
  • 燃焼時間:約2.5分
  • 到達速度:6000mph(9654km/h)
  • 到達高度:38miles(61.14km)

構造


S69-34675 May 7, 1969 Apollo 12 Erection in VAB research: J.L. Pickering
S-ICは、上から順に、Forward Skirt, LOX Tank, Intertank, FUEL Tank, Thrust Structure の5つのユニットより成る。 また、S-ICには5台のF1エンジン、そしてフェアリングの中に8台のRetro(逆噴射) Rocketが搭載される。

Forward Skirt Assembly


Saturn V S-IC stage structure
ここには、S-ICの各種機器を操作するための電力源、2台の独立したDC28Vのバッテリが搭載されている。 No.1バッテリはメインパワーバッテリとも呼び、640アンペア分の容量があり、22ポンドである。 これは、各種ソレノイドを動作させるのに使用する。 また、No2バッテリはインスツルメンテーションバッテリと呼ばれ、計測機器と多重化機器に電力を供給する。 これは1250アンペア分の容量があり、重量は55ポンドである。
MSFC-6870792 October 1, 1968 Saturn V first stages S-1C-10, S-1C-11, and S-1C-9 at Michoud Assembly Facility NASA
また、ここには6種類の周波数によるテレメトリー送信機が搭載されている。 テレメトリシステムのほとんどはThrust Structure内部に搭載されているが、 RF送信機とテープレコーダーがここForward Skirtに搭載されている。 ullage rocket, retro rocket噴射時は、テレメトリ送信に支障をきたすので、 この間のデータはテープレコーダに記録され、後ほど送信される。 このテープレコーダの制御はIUに搭載されたデジタルコンピュータによって行われる。
さらに、ロケットの動きを追跡するためのODOP(Offset Doppler Tracking)システムが搭載されている。 地上からの高周波信号をこのODOPシステムで受信し、また地上に送り返す。 地上局は、周波数のドップラーシフトからロケットの動きを追跡することができる。
またアポロ4、6号のミッションでは、ここに4台のカラーフィルムカメラが搭載され、 飛行中のLOXタンク内部の様子を撮影した。 このカメラとフィルムが格納されたカプセルは、S-IC分離25秒後に切り離され、 パラシュートを開いて着水後、ラジオビーコンの信号を頼りに回収された。

Saturn V S-IC Stage

LOX Tank Assembly


ここには、331000ガロン(約1426ton)、華氏-297度のLOX(Liquid Oxygen:液体酸素)が搭載される。 飛行中は5本のLOX suction lineを通して、1秒間に2000ガロン(約19ton)のLOXがF1エンジンに供給される。 このLOX suction lineの上端部にはCut-off sensorが取り付けられており、 これによりLOXがなくなったことが検出されるとエンジンは停止される。
LOXの注入は、タンクの底に設けられた2つのFill & Drainから、タンクの6.5%になるまでは毎分1500ガロンで行われる。 6.5%を越えると、95%に達するまでは毎分10000ガロンで注入される。そして最後に毎分1500ガロンで100%になるまで注入される。
70-H-1087 July 7, 1970 Apollo 15's S-IC booster stage is trucked from the turning basin to the VAB

LOXの温度が上昇した場合は、LOX suction line内部にヘリウムの泡を送り込むことで冷却を行う。 また、LOXの加圧には、このヘリウムと、酸素、窒素が使われる。 打ち上げ45秒前に、地上施設から、LOXタンク上部に設けられたGOX(Gaseous Oxygen)distributorに、 圧力が26psiaになるまでヘリウムが注入される。そして飛行中はLOXの一部をエンジンの熱で加熱し、 再度LOXタンクに戻すことにより加圧を行う。

Intertank Assembly


このリング状の構造は、LOX TankとFUEL Tankの間に位置し、この二つを接続する。 ここには整備用のアクセスドアと、umbilical openingと呼ばれる各種コネクタが取り付けられている。 umbilical openingには、非常用のLOX排出口、加圧口、電気コネクタなどが含まれる。

KSC-68C-7912 December 3, 1968 The Apollo 10 S-IC stage is hoisted in the VAB for stacking

FUEL Tank Assembly


S-ICで使用される燃料は、RP-1と呼ばれるケロシンの一種である。 この燃料タンクには、203000ガロン(約630ton)のRP-1が搭載される。 飛行中は10本のFuel suction line を通して、1秒間に1350ガロン(約4ton)のRP-1がF1エンジンに供給される。 Fuel suction lineには、その中に窒素の泡を発生させるパイプが取り付けられており、 打ち上げ前にこの中の燃料の温度が上がるのを防止している。 またこのタンクの中には、LOXをF1エンジンに送り込むための5本のLOX suction lineが通っている。
燃料の注入は、タンクの底に設けられたFill & Drainから、タンクの10%になるまでは毎分200ガロンで行われる。 10%を越えると、102%に達するまで毎分2000ガロンで注入される。
燃料の加圧は、LOXタンク内に設けられた4本の高圧ボトルから供給されるヘリウムによって行われる。 このヘリウムは一度F1エンジンに送られ加熱される。そして再度燃料タンクに戻り、加圧に使われる。
燃料はまた、飛行中にエンジンの方向を変えるための油圧としても使われる。 飛行中は、燃料が高圧燃料ダクトからサーボアクチュエーターに送られる。

Thrust Structure Assembly


Saturn V S-IC Thrust Structure Assembly
F1エンジンが取り付けられるThrust Structureは、S-ICの中でももっとも重い(24ton)パーツである。 このパーツがロケット全体の重量を支え、エンジンの全推力を機体に伝える。 ここには4つのholddown postが取り付けられており、F1エンジン噴射後、十分な推力が得られるまで、 ロケットを発射台に押さえつけておくのに使用される。 また、ここには燃料供給口、LOX排出口などが取り付けられている。 さらに4枚のフィンと4つのフェアリングが、F1エンジンを囲むように取り付けられている。 各フェアリングの中には2つずつのRetro(逆噴射)Rocketが内蔵されている。 フィンはロケットに垂直方向の安定性を与えるために取り付けられており、 飛行中は空気摩擦により華氏200度にも加熱される。この熱に対抗するため、チタニウムでカバーされている。 Retro(逆噴射)Rocketが噴射すると、フェアリングは吹き飛ばされる。

72-H-1060 July 1972 Skylab S-IC booster is seen during Boeing/NASA handover ceremonies at Michoud

Range Safety System


これは、非常時に地上からのコマンドでエンジンを停止し、燃料タンクを破裂させ、燃料を空中投棄するものである。 地上から正しいコマンドを受信すると、二重化されたSafety Command Receiverがエンジンを停止し、 LOXタンクとFUELタンクに取り付けられたShaped Chargeに点火し、タンクを破裂させる。

Drawings