打ち上げ脱出システム
打ち上げ時、または離陸上昇時に非常事態が発生すると、
司令船だけがロケットから切り離され、LESによって離れたところまで運ばれます。
これは確実に飛行士たちを守ることができるものではありませんが、
常に危険と隣り合わせの飛行士たちにとって、強い心の支えとなります。
Launch Escape Subsystem(LES)
- 高さ:33ft (10.0584m)
- 直径(胴体):26.4in (67cm)
- 重量:8000lb (3.632ton)
- 製造:Lockheed Propulsion Co. & Thiokol Chemical Corp.
構造
胴体には3基の固体燃料ロケットを格納する。 1つめは胴体下部に4つの噴射ノズルを持つ「脱出モーター」で、非常時にCMを持ち上げる。 これは3.2秒間の燃焼で、147,000lbの推力を発生する。 胴体中央部に2つの噴射ノズルを持つのが「切り離しモーター」で、正常時、そして非常脱出後、不要になったLESをCMから引き離すのに使用する。 これは1秒間の燃焼で、31,500lbの推力を発生する。 3つめは胴体上部に格納された「ピッチコントロールモータ」で、非常時にCM共々飛行コースを変えるのに使用される。 これは0.5秒強の燃焼で、2,400lbの推力を発生する。
LESの先端にはQ-ballと呼ばれる制御装置が取り付けられている。ここには8つの静圧孔があり、気圧の変化により姿勢を知る。 これはガイダンスコンピュータに飛行情報を提供し、姿勢の異常を監視する。 Q-ballの下には、2枚のカナード(canard:先尾翼)が折り畳まれている。各カナードは2つのヒンジでノーズコーンの直下に取り付けられており、 ガスの圧力で動作するアクチュエーターによって駆動される。 ノーズコーンとQ-ballはアルミニウム、インコネルとステンレスで作られている。
脚の部分は直径2.5-3.5インチのチタニウムのチューブで組み立てられており、司令船とは爆発ボルトで接続されている。 また耐熱のため、Buna N ラバーでカバーされている。
異常検出
脱出システムは、第1段目の2つ以上のエンジンの推力が失われた場合、または飛行角度(ピッチ、ヨー、ロール)が異常となった場合に動作する。
脱出システムは打ち上げ後100秒間に異常が検出されると、自動的に動作して司令船をサターンロケットから引き離す。 あるいはLES切り捨てまでであれば、いつでも飛行士がマニュアル操作で作動させることができる。 なにも異常がない場合は、LESはBPC(後述)共々、高度295000feet(89900m)または第2段(S-II)点火後30秒後に切り離される。 (サターン1Bの場合は、高度275000feetまたは第2段(S-IV)点火後20秒後)
脱出
ミッション中止(アボート)となると、まずサターンブースターのエンジンが停止される。 ただし、打ち上げから30秒以内の場合は、30秒を過ぎるまではエンジンは点火され続ける。 (サターンIBの場合は40秒) 続いてLESの下部にある脱出モーターに点火され、LES,BPC,CMがSMから切り離される。 そしてLES上部のピッチコントロールモータの点火により、CMはブースターの飛行コースから離れる。
アボートシーケンス開始から11秒後、ガスカートリッジが点火されカナードが開く。そして空力によりCMは底部を前にするように回転する。 これにより、CMはヒートシールドを進行方向に向ける。 約24000feet(7300m)まで降下したところ(低高度でアボートされた場合はカナード展開から3秒後)で、LES,BPCはCMから切り離される。 切り離されたLESは、胴体中央部の切り離しモーターを点火して、CMの飛行軌道から離れていく。
LES切り離し0.4秒後、CMの着陸システムが作動を開始する。所定の高度になるとパラシュートを開いて軟着陸する。
もし離陸前、発射台上でアボートされた場合は、LESはCMを高度4000feet(1200m)まで上昇させた後、切り離される。
もしLESを切り離した後にミッションアボートとなると、CMはSM共々サターンブースターから切り離される。 SMのRCSエンジンを使ってブースターから離れ、SMのSPSエンジンを噴射して軌道を変える。 このシーケンスもアボートスイッチの押下だけで自動的に行われる。 そしてその後は通常の大気圏再突入の手順に従って、地球に帰還する。
Boost Protective Cover(BPC)
- 高さ:11ft (3.35m)
- 直径:13ft (3.96m)
- 重量:700lb (318kg)