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支援船(SM)

支援船(SM:Service Module)は、月旅行全体を通して司令船と宇宙飛行士が必要とする電力、水、酸素、生活環境を供給します。 そして飛行中の姿勢制御を行います。地球と月の間を往復するのに必要な推力も、支援船のSPSエンジンによって得られます。
1960年代当時の日本では、Service Moduleは「機械船」と訳されていました。 当サイトではより原語の持つ意味に近い「支援船」と呼んでいます。
  • 高さ:24ft 5in (7.4422m)
  • 筐体:14ft 8in (4.4704m)
  • SPSノズル:9ft 9in (2.9718m)
  • 直径:12ft 10in (3.9116m)
  • 最大重量:55000lb (24.97ton)
  • 製造:ノースアメリカン(North American Rockwell Corp. Space Div., Downey, Calif.)

構造


Apollo Spacecraft Service Module(SM)
支援船(SM:Service Module)は、大気圏突入直前まで司令船に接続され、司令船に酸素、水と電力を供給する。 また、支援船には1基のSPS(Service Propulsion Subsystem)エンジンと 4セット16基のRCS(Reaction Control Subsystem)エンジン、そしてこれらに必要な燃料、酸化剤、ヘリウムを搭載し、
S69-32370 April 11, 1969 The Apollo 11 CSM being moved from work stand for mating
地球に帰るまでに必要な推力の供給と姿勢制御を行う。 支援船の重量の約75パーセントはSPSエンジンとその燃料である。
支援船の筐体はアルミニウムのシートに挟まれたアルミニウムのハニカム構造で作られており、その厚さは約1インチである。 中央に、直径約44インチ(1.11m)の円筒形のCenterSectionが配置され、その周りを扇形をした6つのセクションが取り囲んでいる。 セクタ1と4が内角50度、セクタ2と5が内角70度、セクタ3と6が内角60度となっている。

Center Section


ここには2基の直径40インチの球形ヘリウムタンクと1基のSPSエンジンが格納されている。 ヘリウムタンクはそれぞれ19.6立方フィートのヘリウムを搭載し、その圧力は3600 psiである。 これは、SPSエンジンの酸素タンクと燃料タンクを加圧するのに使用される。この圧力により、燃料はタンクからエンジンに送られる。

Apollo Spacecraft J mission Service Module(SM) Sector 1: SIM(Scientific Instrumentation Module) Bay

Sector 1


アポロ14号まではバランスを取るためのウエイトが搭載されていた。 アポロ15号から17号では、ここはSIM(Scientific Instrumentation Module) Bayとして使用され、 月軌道から月面を探査するための高解像度カメラや放射線測定装置が搭載された。

S71-2250 June 1971 View of Apollo 15 Service Module SIM Bay research: J.L. Pickering

Sector 2


外部にはRCSエンジンとラジエーターパネルが取り付けられている。 内部にはSPSエンジン用の酸化剤保持タンク(oxidizer sump tank)、RCS燃料タンクとそれらの配管が通っている。 酸化剤保持タンクは高さ153.8インチ、直径51インチのチタニウム製で、13923lbのnitrogen tetroxideを保持できる。

Sector 3


外部にはRCSエンジンとラジエーターパネルが取り付けられている。 内部にはSPSエンジン用の酸化剤タンク(oxidizer tank)、RCS燃料タンクとそれらの配管が通っている。 酸化剤タンクは酸化剤保持タンクよりやや小さく、高さ154.47インチ、直径45インチで、11284lbの酸化剤を搭載する。

Sector 4


Apollo Spacecraft Service Module(SM) Sector 4 : fuel cell, oxygen tanks, hydrogen tanks
ここには3基の燃料電池と電力サブシステム、2基の低温酸素タンク、2基の低温水素タンク、およびこれらの供給機器が搭載されている。 3基の燃料電池はセクタの上部に搭載されており、それぞれのサイズは高さ44インチ、直径22インチ、重量245lbである。 これは宇宙船の電力と飲み水を供給する。
低温酸素タンクはセクタの中央部に横並びに搭載されており、低温水素タンクはその下に上下に並べて搭載されている。 これらはいずれも球形で、燃料電池に酸素と水素を供給する。
AS13-59-8500 view of the crippled Service Module after separation

低温酸素タンクは直径約26インチのInconel(ニッケルと鉄の合金)製である。 326lbの酸素を半液体・半気体の状態で搭載する。
低温水素タンクは直径約31.75インチのチタニウム製で、約29lbの水素を半液体・半気体の状態で搭載する。
アポロ13号が危機的な状況に陥ったのは、ここに搭載されたNo.2低温酸素タンクの爆発による。 このため、アポロ14号以降では、予備の低温酸素タンク1基がsector1に、また燃料電池故障時の予備バッテリ1基がsector4に追加された。

AS09-24-3641 (description not yet available) Ed Hengeveld

Sector 5


外部にはRCSエンジンと環境制御ラジエーターパネルが取り付けられている。 内部にはSPSエンジン用の燃料保持タンク(fuel sump tank)、RCS燃料タンクとそれらの配管が通っている。 燃料保持タンクはセクタ2の酸化剤保持タンクと同じく高さ153.8インチ、直径51インチのチタニウム製で、 8708lbの燃料(ヒドラジン:窒素と水素の化合物)を搭載できる。

Sector 6


外部にはRCSエンジンと環境制御ラジエーターパネルが取り付けられている。 内部にはSPSエンジン用の燃料タンク(fuel storage tank)、RCS燃料タンクとそれらの配管が通っている。 燃料タンクはセクタ3の酸化剤タンクと同じく高さ154.47インチ、直径45インチで、7058lbの燃料を搭載する。

アンテナ


Apollo Spacecraft Service Module(SM) high-gain S band antenna
NASAと連絡を保ち、テレメトリーデータを送信するために、2系統のアンテナが装備されている。 一つは後部エンジンの脇に取り付けられた高利得アンテナ(S-band high-gain antenna)、 そしてもう一つは胴体中央に2つの、全方位アンテナ(VHF omnidirectional antennas)である。
S68-52190 October 4, 1968 Erection of the Apollo Service Module in High Bay #3
高利得アンテナは、11インチ四方の四角いホーンと、それを取り囲む4つの直径31インチのパラボラからなる。 これは非常に指向性が強いアンテナで、正確に地球の方向を向いていないと通信ができない。 対する全方位アンテナ(その形からシミター:scimitars(=三日月刀)と呼ばれる)は比較的方向の影響を受けにくく、
Apollo Spacecraft Service Module(SM) scimitar antenna
地上の通信担当主任が、2つのうち、より受信状況のよい(地球側を向いている)アンテナに切り替えながら使用する。 全方位アンテナは全長ほぼ13.5インチ、厚さ1/100インチのステンレス製である。

RCSエンジン


Apollo Spacecraft Service Module(SM) RCS(reaction control subsystem) engine
RCS(reaction control subsystem)エンジンは、宇宙船の姿勢制御を行う小型エンジンで、 SMには、4方向に放射状にノズルが取り付けられたユニットが4つ、
Apollo Spacecraft Service Module(SM) RCS diagram
それぞれ+Z,-Z,+Y,-Y軸に対して7度のオフセットをつけて取り付けられている。 それぞれのエンジンは燃料としてmonomethyl hydrazine (MMH)、酸化剤としてnitrogen tetroxide (N2O4) を使用し、100ポンドの出力を持つ。 2つの燃料タンクと2つの酸化剤タンク、そしてこれらを加圧するための1つのヘリウムタンクが、 各ユニットのそば、SMの筐体内に設置されている。 燃料と酸化剤は2対1の比率で混合され、自然発火により噴射する。そのため点火装置は必要ない。

SPSエンジン


Apollo Spacecraft Command and Service Module CSM-119 at KSC
SPSエンジンは、主に月軌道に入るための減速、地球に帰るための月軌道からの脱出、 および地球と月の間での中間軌道修正に必要な推力を供給する。 SPSエンジン本体は3フィート5インチであり、これに全長9フィート4インチのコロンビウムとチタニウム製の噴射口が取り付けられている。 また、燃料タンクなどSPS全体の重量は41500ポンドであり、SM全体の75%を占める。 出力は20500ポンド、燃料はヒドラジン(50:50 hydrazine:unsymmetrical dimethylhydrazine(UDMH))、 酸化剤はnitrogen tetroxideであり、混合すると自然発火するため点火装置は不要である。 このエンジンにはスロットルはなく、出力の調整はその点火時間(0.4秒から約750秒)によって行い、約50回のリスタートが可能である。 無重力下では、燃料をタンクの底に押しつけるため、まずRCSエンジンによる小噴射(ullage maneuver)を行った後に噴射を行う。 エンジンはジンバルリング(gimbal ring)に取り付けられており、Z(Yaw)軸周りにプラスマイナス10度、 Y(Pitch)軸周りにプラスマイナス6度向きを変えることができる。
Apollo Spacecraft Command and Service Module CSM-119 at KSC
またSMの重心の位置がずれているため、エンジンはZ軸回りに+1度、Y軸周りに-2度傾いた状態が直進時の状態である。 このエンジンは AerojetGeneral Corp. によって製造された。

SM本体の、司令船と反対側の面には、SPSエンジンを覆うように後部ヒートシールドが取り付けられており、SPSエンジンの噴射熱から支援船を守る。

CMとの接続・切り離し


Apollo Spacecraft Service Module(SM) top detail
CMと接続される面には、6本のアルミニウム合金でできている梁が配置されている。 このうち3つには支持パッド(compression pads)が取り付けられている。 残りの3つには、支持パッドとともにCMを結びつけるワイヤー(tension ties)が取り付けられている。 CMとSMは、このtension tiesと、電力・信号などを供給するCM-SM umbilicalによって結ばれている。

SMとCMの切り離しは、SMに取り付けられたコントローラーによって自動的に行われる。 切り離し時には、コネクタ類の切断、電気系統の制御の移管、CMとSMを引き離すためのSMのRCSエンジンの噴射が瞬時に行われる。
まず切り離し前に、飛行士はSMの電力を使ってCMのRCSの加圧を行う。 つづいてメインコンソールの2系統の切り離しスイッチのどちらか一方を入れると、切り離しシーケンスが始まる。 最初にCM-SM umbilical内の電気系統がOFFされる。10秒後、CMとSMを結ぶ tension ties が切り離される。 同時に火薬によって動作するステンレスのギロチンカッターにより、CM-SM umbilical内のケーブル・ワイア類が切断される。 さらにSMのRoll-RCSエンジンが5秒間噴射し、SMの飛行コースを変更し、切り離したCMとの衝突を避ける。 最後にSMのスラストエンジンが、燃料がなくなるか電力がなくなるまで噴射し続け、SMはCMから遠ざかっていく。